「海」について考えるとき、私にとって一番身近な海はバルト海です。子供のころは、海は夏に行く特別な場所だったように思います。でもバルト海はもっと近く、生活の中にありました。リューベックに住んでいたときには毎週のように訪れた海で、実際世界中で人生で一番多く時間を費やした海です。
北方の海は、南国の海とは違う生き物なのではないかと思うほど、別物に思えます。色や景色だけでなく、風とか香りとか、光とか…夏のバルト海も南の国と同じように太陽がほぼ1日中輝き、強烈な紫外線が注ぐにも関わらず、やはり南国の海とは違って見えます。
寒い地方なだけあって、特に心に残っている景色はやはり冬のバルト海です。夏のおしゃれな賑わいと明るさとは打って変わり、冬は海水が凍ることももちろんあります。この氷をを歩いて海を渡ればスウェーデンに行けるかなと考えて(そんなことはできませんが)、厚く灰色に垂れ下がる冬の雲を映して濃紺の海水が湖のように静まり返っていたり、当時はあまり感激もせず眺めて歩いていました。
もうバルト海近郊に住んでいたころから、15年近く経ちました。今年もバルト海を数日間訪れ、春先でも岸辺に流れ着いた流氷の巨大なかたまりが自分の背ほども厚さがあるのを見ると、逆に昔はなかった感動が湧き上がります。ああやっぱりバルト海だという気持ちと、そしていつかこの先のスカンジナビア半島を縦断して北極圏を越えヨーロッパの最北に行きたいと憧れが湧くのです。きっと海を渡って向こう側に行こうと思う人間の原始的な本能のようなものあるのかもしれません。少なくとも私にはそんな本能が植わっているように思います。
バルト海は、私にとって夏だけに行く特別な海ではありませんが、きらきらしたたくさんの思い出とこれからの夢が広がる、やっぱり特別な海には違いありません。
リューベックから出航するスウェーデンやフィンランドの大型客船を見ると、心は勝手にバルト海を越え北極へ~~ 暖かい国も好きですが、強烈に憧れるのはなぜか北の寒い地方です。