毎年、今の季節になると心にちらちらとよぎり出すのがフランスのアルザス行きの予定です。

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サンマリーまでの道のり
展示会がある Sainte-Marie-aux-Mine に行くためです。Sainte-Marie-aux-Mine(通称サンマリー)はとても小さな村で、便利なところにあるとは言い難く、滞在できるホテルやペンションもほとんどありません。ホテルのポータルで検索すると2件の検索結果が該当するくらいです。
外国や遠方から来る出展者や来場者の多くは、野宿や車中で、または不動産を買ってしまう(家一軒を倉庫も兼ねて)、村の農家の方々と知り合いになって泊めてもらう、などなど、それぞれの方法で宿泊先を確保していますが、実際にはサンマリーの村の中よりも、近隣の村々まで候補を広げて滞在先を考えるほうが現実的です。
電車とバスの乗り継ぎになって面倒ですが、私の定宿や以前はコルマール Colmar 、現在はストラスブール Strasburg です。
私はいつも一人なので、なんとかしようと思えばなんとかならないこともないですが、会場から近いほうがいいとか田舎の景色がすばらしいとかそういうレベルではなく、
・1泊や2泊なら楽しいキャンプも長期間はもうおなかいっぱい、そんな体力もないし、
・共同の洗面所と台所で共同生活は疲れるし、
・第一スーパーもお店もないし、車が必要になるし。
・知人の家兼倉庫に泊めさせてもらったら掃除とかしなくちゃいけないし、
・そして最大の理由は、動物嫌い、猛禽類なんて見たら即死レベル
なので、私は無理して本物の自然と田舎に馴染むことを諦め、おとなしく街に滞在することにしています。巨大なイベントを開催するのに、こんなにインフラが整っていないことに悪態の一つや二つや50個ぐらいつきたくなりますが、まぁ仕方がありません。
それに、この時期のヨーロッパ(少なくともドイツとフランスで)はセールの季節なので、ドイツとは少し取り扱い商品が違う、暖かいフランスに行くのが、展示会だけではなく本当になにもかも私は楽しみです。
他に方法がないからここで乗り換えるしかない場所・セレスタ
コルマールやストラスブールから電車でサンマリーに行くには、その間にある小さな街、セレスタ Sélestat でバスに乗り換える必要があります。
ヨーロッパのたいていの駅には、カフェ・バーのようなものが併設されています。この小さなセレスタの街の駅も例外にもれずカフェ・バーがあり、常連のような初老の男性と、私はよく話をしました。
毎年見かけるこのおじさんは、電車から降りてバスに乗り換える人たちを楽しそうに見ています。ふらっといろいろな人に話しかけたり、米国のカウボーイ風の帽子をかぶっていらっしゃったので、日本からサンマリーにいらっしゃる方でも、セレスタの駅でこの人をお見かけなったことがある方もきっと多いか思います。
実はこのおじさん、リアルにスナフキンです。
リアル・スナフキン
おじさんが話しかけても、大抵の人たちは無視します。
カフェ・バーから朝からワイングラスを片手に出てくる赤ら顔で陽気なおじさんに話しかけられたら、まぁ10人中9.8人くらいは無視するかもしれません。ほとんどの通行人は展示会に行くための観光客ですから。
私もいつも無視していたのですが、駅でぼーっと一人でバスを待っているとき、いつからかこのおじさんと話をするようになりました。
どういうわけか、毎回かなりいろいろなことを考えさせられました。深いテーマを振ってくるのです。
ある年は「時間について」
別の年は「自分の道について」
また別の機会には「働くことについて」「笑顔について」「旅について」…
このおじさんには、毎年同じ人間「私」と話しているという認識はないと思います。ただ通りすがりの「誰か」と話しているだけですから。
私が知っている限り、おじさんはフランス語、ドイツ語、英語、アルザス語を話します。おじさんの話で私が好きなのは、おじさんの大冒険の話です。この方、セレスタからギリシャのクレタ島まで自転車で行ったことがあるのです。理由は、ただ気が向いて。時間があったから。
実際にはおじさんがどのルートで行かれたとか、私には詳細はわかりません。
スポーツ用でも旅行用でもなんでもない、普通のお買い物用のような自転車で、クレタ島まで。
「行ってみたかったから」。
そしてクレタ島を一周して、帰路に向かう途中で自転車が壊れてしまったから、電車とバスとヒッチハイクを繰り返して帰ってきたらしいです。
私は人の旅行の話を聞くのがとても好きで、自分の父の若いころのヨーロッパ滞在の話もたぶん1万回くらい聞いていますが、今でも父のそんな話を聞くのが好きです。
このおじさんのクレタ島への冒険を絡めた哲学的な話も、私はとても好きなのです。
バスが来るまでの時間、私は毎年「あのおじさんいるかな」と、毎年セレスタの駅で一瞬考えるます。
でも、残念ながらもうこのおじさんに会うことはもうないと思います。
去年、セレスタの駅のこのカフェ・バーは閉店されいました。
セレスタの賢人

私にはわかりません。

「駅」があるのでこのへんの村の人たちにとっては、セレスタは「街」です。人口は2万人くらいです。
夏至のころのアルザスの、小さな街での小さな出来事でした。

