大変感謝すべきことに、どこに行っても事故や事件には未だ遭遇したことのない私ですが、一度自分自身が未知ゆえにその国の人にご迷惑をおかけしたことはあります。
インドネシアのバリ島にて…
ハンブルグで同級生だった友人の結婚式にご招待いただき、私はとても幸せな気持ちでバリに降り立ち友人宅に到着しました。結婚式は国はどこであれ何教であれ、とても良いものです。ご家族皆さんがほのぼのと幸せそうなご様子を見ると、それだけで幸せのもらい泣きな気持ちになります。
なにはともあれ荷物を置き、まだ良くはわからずとも近辺散策にとバスに乗ったときのことです。バスの路線とか何番のバスとか、そんなことはまだなにもわかりません。私はバリに着いたばかりだったのです。どうやらバリは、バスには運転手さんとそのほかに降りるときにバス代を徴収する人とが乗っているようでした。私も見よう見まねで降り際にバス代を支払い、ふとおつりをみると、戻ってくるべき小銭が明らかに足りません。
「ちょっと待って、おつりが足りないんだけど!」
と、私はついバス代徴収係のおじさんの手首を掴んでしまいました。(ドアはついていても閉まらず走行していました。)
動きかけたバスは当然すごい勢いで急停止しました。さらに偶然一緒に降りた、あれはきっとフランスの人でしょうか、同じ観光客のよしみで「おつりが足りないなんてとんでもない、それはきちんと取り戻した方がいい」などと応援の言葉をかけれくれ(その人はもちろんその後どこかに行ってしまいました)、気を強くした私は「早く全額返してよ!」と、掴んだ手首を離しません。
困ったおじさんからはぽろっぽろっと小銭を渡されましたが、まだ足りていません。日本円にしたら微々たる金額、ほんの数円にもならないのですが、問題は金額の大きい小さいではないのです。人を騙そうとする、その気持ちがよろしくないのです。
おじさんは地元の言葉で何か言っています。意味はわかりませんが、目で悲しそうに訴えています。でもそんな手には乗りません。窓から皆さん見ています。でもそんなものにも動じません。「まだ数ルピアあるでしょ、返しなさいよほらほら」と、またぽろっぽろっと小銭を受け取るために一瞬おじさんの手首を話した隙に、バスは発車してしまいました。
さすがにそのバスを追いかけようとはしませんでしたが、まったくバリの人ってのはこんなのかねぇ…ケっなどと思いおつりの小銭をよくみると、今度はおつりが多すぎるのです。最初はたしかに少なかったのです。
日本円にしたら数十円…ですが、そうです金額の大きい小さいではないのです、私は余分に脅し取ってしまったのです。おじさんが涙目で何かを訴えるわけです。ごめんなさい。
さらに滞在しているうちにわかったのですが、バリでは…もしかしたらインドネシア全土かもしれませんが…1の位の硬貨はほとんど流通していないのでした。硬貨がないので、スーパーなどではおつりの代わりにアメ玉などをくれました。
友人の結婚式は伝統的ですばらしく、バリの人は皆さん本当に親切でした。それに比べて私はなんて酷い人だ…と思いましたが後の祭りです。
その後行ったヒンドゥー寺院で、私はその余分を含める気持ちで多く寄付しました。バスの人達にその分の寄付金が戻るわけではないですが。
無知とはかくも恐ろしいものなのだと、その時私は肝に銘じました。初めて行く国で初めて見る硬貨を手にすると、私はいつもバリでの痛い自分を一瞬思い出さずにはいられません。