ドイツの黒い森地方からライン川を渡ったフランス側に、フランス語で ヌフ=ブリサック、ドイツ語では ノイ=ブライザッハと呼ばれる八角形の村があります。初めてこの村の上空から google map の写真を見たときの大きな衝撃を、私は忘れません。村が八角形をしているんです。

八角形が好きな私は、この村の写真を探したり、時間があると地図で空から周遊して眺めてみました。ドイツの黒い森地方からフランスのアルザス地方、さらに南のスイスまで空から鳥のように眺めるのは、とても楽しい時間です。
そして去年、初めてその機会に恵まれました。フランスのコルマールに行くとき、ドイツ側のブライザッハからフランスのヌフ=ブリサックを経由して行くバスで行ったのです。
小さな路線バスの中で、私はとてもわくわくしながら窓にへばり付くように外を見ていました。とても良い天気で、暖かくて、嬉しかったです。
当然かもしれませんが、地元の方々はほとんど外を見たりしません。通学の子供達は携帯電話をいじり、お年を召した方々はこっくりこっくりとうたた寝をされていたり。「さぁみなさん、もうすぐ八角形の村を通りますよ、いいんですか寝てても。そんな場合じゃありませんよ起こしてあげますよ」と心の中で思いましたが、もちろんそんなことはいたしません。
私にとっては特別でも、地元の方々には日常の景色なのですから…
ヌフ=ブリサックの村は路線バスに乗ってすぐでした。
「あれ…」
…なんか普通。恋い焦がれるようにわくわくとバスに乗りましたが、これが偽りない最初の感想です。当たり前ですが、八角形の村は、上空から見るからこそ八角形だとわかるのです。と、わかったからです。
地上では八角形だとわかる要素はほとんどなく、村を出るときにお堀のとんがった部分が見えたことが唯一、地図で空から見たのと同じだと認識できました。
人口2000人ちょっとの小さな小さな村の中は、それなりにかわいらしくノスタルジックでした。
でも。
この村は空から見るから、きれいなんだ…
がっかりしたとは言いませんが、フランス側でもドイツ側でも、この地方特有のかわいらしい村は、ほかにもっともっとたくさんあるだろうということも、否めません。
時がとまったような静かな村の中心の広場で、子供たちが何人かばらばらと降りていきました。日常的な、普通の景色でした。
ただ、ヌフ=ブリサックの周りの自然は本当に美しいです。目的地のコルマールまでのバスから見た風光明媚な景色は、お上りさんの私にとってはまさに絵はがきそのものでした。
なんといってもそこは、ドイツの黒い森から数キロと離れていない地続きです、同じように美しくワインの葡萄畑がそこにも延々と広がっていました。
そこから700km以上も北方に住んでいる私から見ると、この地方の夏はきちんと夏らしい暑さですし、私は葡萄畑を見るとなぜか血が騒ぎ、そのまま住み着いてしまいたいような衝動にかられます。
* * * *
八角形の村・ヌフ=ブリサックに初めて行ってから、もうすぐ1年経ちます。またアルザス地方での展示会です。会場となる村はヌフ=ブリサックやコルマールからさらに遠く、ストラスブールからもやっぱり遠く、ある意味「秘境」といえるほど辺鄙なところにある村です。なんといっても場所はフランスの片田舎、気が遠のくほど交通の便が悪いです。が、それでもいいのです。田舎は田舎らしく、不便なほうがいいのです。
<a href=”http://akaltama.com/diary/?eid=82″ target=”_blank”>それに、なんといっても今年は場所を間違えずに会場の村へ行けるよう、念には念を入れて確認してあります。</a>
そういえば昔、同じクラスにフランスの「すんごい田舎」出身の男の子がいました(出身地の場所を言っても誰も知らないので、本人がそう言ってました)。
彼曰く、「パリはパリという場所でフランスじゃないよ。本当のフランスは田舎にあるんだ。」
わかるようなわからないような。でも未だにやっぱりわからないような… なにはともあれ、私はパリも好きですが、フランスの田舎もかなり好きです。

※写真はウィキペディアからおかりしました。